
『バイリンガリズムの政治学』は、教科書・文学国語で学習する文章です。高校の定期テストの問題にも出題されています。
ただ、本文を読むと筆者の主張が分かりにくいと感じる箇所も多いです。そこで今回は、『バイリンガリズムの政治学』のあらすじや要約、意味調べなどを解説しました。
『バイリンガリズムの政治学』のあらすじ
本文は、三つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。
①サンディエゴの手前に突然現れる道路標識は、人物シルエットと「Caution(注意)」の英語表記が、尋常ではない緊迫感を与える。一見すると単なる横断への注意喚起だが、その背後にある国境の現実に気づくと、標識が示すイメージと実際の意味との大きなずれに、不条理で説明しがたい感覚を味わうことになる。
②この標識は、深夜に国境を越えて逃走し、道路を横断するメキシコ人の存在に対応して設置されたものである。スペイン語の「Prohibido(禁止)」は彼らの横断行為そのものを戒めている。英語とスペイン語によって運転者と密入国者へ別々のメッセージを同時に伝える仕組みは極めて特異であり、同じ標識の中に二重の視線が組み込まれている点でも異様である。二つの異なる言語表記は、「英語話者=アメリカ人」、「スペイン語話者=密入国者」という民族的・文化的前提を内包し、両者の非対称で暴力的な社会関係を鮮明に示している。
③さらに、この二言語の対応を逆転させてみると、アメリカ人とメキシコ人の立場が反転する構造が浮かび上がる。この気づきは文化批評的なまなざしを促し、国境という文化境界に潜む対立や権力差を可視化する。標識という記号は、こうした複雑な文化的・社会的緊張を象徴し、新たな表現や視点を切り開く特権的なサインとして機能している。
『バイリンガリズムの政治学』の要約&本文解説
この文章は、アメリカとメキシコの国境付近にある「英語とスペイン語が併記された道路標識」をきっかけに、言語と社会の不平等、そして文化の境界で起きる対立を考えさせる内容です。
筆者は、この標識が単なる交通ルールではなく、民族間の力関係や社会的格差を象徴する記号になっていると指摘します。
道路標識に秘められた“権力の構図”
文章の前半では、英語で「Caution(注意)」と書かれ、スペイン語で「Prohibido(禁止)」と書かれた標識が登場します。筆者は、この表記の違いが次のような構図を浮き彫りにすると指摘します。
- 英語 → アメリカ人の運転者へ向けられた注意喚起(守るべき側)
- スペイン語 → メキシコ人・中米からの不法入国者への禁止命令(取り締まられる側)
ここには、「英語話者=アメリカ社会の中で守られる側」「スペイン語話者=違法行為をする危険な存在として扱われる側」という非対称な関係が組み込まれている、と筆者は見ています。
分かりやすい具体例
例えば、校内で一般の生徒には「注意してね」とやさしく書いた掲示があるのに、特定の部活動の生徒にだけ「禁止!」と強い語調の注意書きがされているとしたらどうでしょうか?
同じ「校則違反を防ぐ」という目的でも、誰にどんな言葉を使うかによって、その集団がどう扱われているかが透けて見えます。筆者は、道路標識にもこれと同じ「扱われ方の違い」が埋め込まれていると言いたいのです。
言語を入れ替えることで見える「逆説」
筆者はさらに、英語とスペイン語を入れ替えて考えると、この問題がより鮮明に見えると論じています。
もし英語で「禁止」と書かれ、スペイン語で「注意」と書かれていたら、それだけでどちらが「危険な存在」と見なされているかが逆転してしまいます。
筆者はこれによって、「言語は単なる道具ではなく、社会の力関係そのものを形づくる要素だ」と強調しているのです。
標識は文化の衝突点であり、新しい言語観のヒント
文章の最後では、この標識が単に交通のための記号ではなく、文化が衝突し、混じり、揺れ動く場を象徴する“特権的なしるし”だと述べています。
つまり、この一枚の標識は、
- 国境を越える人々の絶望的な移動
- アメリカの国境管理の力
- 言語による分断
- 文化の摩擦と混在
- 多文化社会における対立と可能性
といった複雑な現実をすべて凝縮している、ということです。
筆者の主張を簡潔に
まとめると、この文章のテーマは「言語は単なるコミュニケーション手段ではなく、社会の不平等や文化の対立を映し出す鏡である」ということです。道路標識という身近なものを通して、文化・民族・国家の緊張関係や、境界で生まれる新しい意味の可能性を考えさせる内容になっています。
筆者の主張:「英語・スペイン語の併記標識は、移民と国家の非対称な力関係を象徴しており、言語そのものが政治的な意味を帯びていることを示している。」
『バイリンガリズムの政治学』の意味調べノート
【一見して(いっけんして)】⇒ちょっと見て。
【尋常(じんじょう)】⇒普通であること。当たり前。
【ただならぬ】⇒普通ではない。
【シルエット】⇒人物を黒く塗りつぶした絵。
【特定(とくてい)】⇒ある一つに限定すること。
【即物的(そくぶつてき)】⇒物質的・現実的な面を重視するさま。
【乖離(かいり)】⇒二つの事が大きく離れること。そむき離れること。
【不法(ふほう)】⇒法律に反していること。
【侵犯(しんぱん)】⇒他の領域や権利をおかすこと。
【密入国(みつにゅうこく)】⇒合法の手続きを踏まずに国へ入ること。
【荒涼(こうりょう)】⇒荒れはててさびしいようす。
【優に(ゆうに)】⇒たやすく。軽く(数値や基準を)越えて。
【逃避行(とうひこう)】⇒事情があり、世間の目を避けて各地を移り歩いたりすること。
【頻発(ひんぱつ)】⇒同じ物事がたびたび起こること。
【告知(こくち)】⇒広く知らせること。
【要因(よういん)】⇒物事が起こる主要な原因。
【早合点(はやがてん)】⇒よく確かめずに早まって理解すること。
【恒常的(こうじょうてき)】⇒いつも変わらず続くようす。
【解さない(げさない)】⇒本当の意味を理解しない。
【明示(めいじ)】⇒はっきりと示すこと。
【順法者(じゅんぽうしゃ)】⇒法律を守る人。
【弁別(べんべつ)】⇒区別して見分けること。
【所在(しょざい)】⇒ものがある場所。ありか。
【規律(きりつ)】⇒集団で守るべき決まりや秩序。
【充満(じゅうまん)】⇒いっぱいに満ちること。
【現出させる(げんしゅつさせる)】⇒目に見える形で現れさせる。
【惰性(だせい)】⇒今までの習慣で続くこと。
【特性(とくせい)】⇒そのもの特有の性質。
【疎外(そがい)】⇒仲間外れにすること。よそ者のように扱うこと。
【凝縮(ぎょうしゅく)】⇒ぎゅっと詰まって一つにまとめられること。
【精確(せいかく)】⇒細かいところまで確かなこと。
【主体(しゅたい)】⇒行動や意識の中心となる存在。
【機知(きち)】⇒とっさに働く鋭い知恵。
【無人称(むにんしょう)】⇒語り手や特定の人物に属さず、中立的な語りのあり方。
【逆説的(ぎゃくせつてき)】⇒普通とは逆の方向から真実を述べるさま。
【越境者(えっきょうしゃ)】⇒国境を越える人。
【生起(せいき)】⇒物事が起こること。
【突破口(とっぱこう)】⇒行きづまりを打開するきっかけ。道を開く手がかり。
【示唆(しさ)】⇒それとなく教えること。ほのめかすこと。
【はざま】⇒二つの物の間。すき間。
【象徴的(しょうちょうてき)】⇒ある概念を象徴として表すようす。
【激烈(げきれつ)】⇒激しく強いようす。
【錯綜(さくそう)】⇒複雑に入り組むこと。
【特権的(とっけんてき)】⇒特別な地位や役割を持つさま。
『バイリンガリズムの政治学』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①船がヒョウリュウする。
②これは重大なシンガイ行為だ。
③バクゼンとした不安を抱える。
④彼はタイダな日々を改めた。
⑤議論がフンキュウして混乱する。
次のうち、本文の内容として最も適切なものを選びなさい。
(ア)英語とスペイン語を併記した道路標識は、交通安全のためだけに設置されたものであり、社会的背景を読み取る必要はないとしている。
(イ)英語とスペイン語の表記を入れ替えても意味が変わらないため、道路標識には特別な社会的意味はないとしている。
(ウ)英語とスペイン語で異なる内容を示す道路標識は、アメリカ人とメキシコ系移民との非対称な関係を反映し、言語が社会的な力関係を象徴することを示している。
(エ)英語とスペイン語の併記は、アメリカ社会における両者の平等な関係を示すものであり、対立はほとんど存在しないとしている。
まとめ
今回は、『バイリンガリズムの政治学』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。