
『ある共生の経験から』は、教科書・論理国語で学習する文章です。高校の定期テストの問題にも出題されています。
ただ、本文を読むと筆者の主張が分かりにくいと感じる箇所も多いです。そこで今回は、『ある共生の経験から』のあらすじや要約、意味調べなどを解説しました。
『ある共生の経験から』のあらすじ
本文は、三つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。
①<共生>という営みは、自然界で広く行われている。一般に、共生とは二つの生物がたがいに密着して生活し、その結果として相互のあいだで利害を共にしている場合を指す。多くの場合、共生がなければ生活が困難になり、はなはだしいときは生存が困難になる。共生は偶然、便宜的な形ではじまったのではなく、そうしなければ生きていけない瀬戸ぎわに追い詰められた形で始まったのだろう。だが、いったん始まれば、それは考えようのないほど強固な形で持続することになる。
②私がこう思うのは、私自身がソ連軍に抑留され、収容所へ送られた<共生>の経験があるからだ。私たちが経験した苦痛は、飢えと過酷な労働である。民間抑留者が主体の収容所では、一般捕虜の収容所にくらべて、極端に食器が少ない。食事はいくつかの作業班をひとまとめにして順番に行われるが、その際、二人分を一つの食器に入れなければならない。これが、収容所における<共生>の始まりである。二人で食缶組をつくる作業は、激しい神経の消耗であった。分配が終わった後の、安堵感は実際に経験したものでなければわからない。共生の目的は、他にもある。私たちの労働は土工が主体だったが、毎朝現場に着いてすぐに工具を確保するためには、最小限二人の人間の結束が必要であった。
③私たちを最後まで支配したのは、人間に対する強い不信感である。ここでは、人間はすべて自分の生命に対する直接の脅威としてあらわれる。この不信感こそが、人間を共存させる紐帯であることを、私たちは長い期間を経て学び取った。人は共生のもとで、はじめて真の孤独が生まれる。孤独とは、決して単独な状態ではなく、のがれがたく連帯の中にはらまれている。孤独に立ち返る勇気をもたないかぎり、いかなる連帯も出発しない。睡眠の時間でも、<共生>は継続する。私たちは、二枚の毛布を共有して一緒に寝た。昭和23年、私たちはそれぞれいくつかの集団に分割されて出発した。私の食缶組の最後の相手は目の前から姿を消したが、その後、私が彼を思い出すことはほとんどなかった。
『ある共生の経験から』の要約&本文解説
この文章で筆者が伝えたいのは、「共生とは単に助け合う美しい関係ではなく、生きるために追い詰められた人間が作り出す、緊張に満ちた関係である」という点です。
文章の前半では、共生が自然界で広く見られる現象であり、二つの生物が互いに離れられない状況で生きている状態だと説明しています。つまり、共生は単なる偶然や気まぐれではなく、生存のギリギリの状態で生まれる必然的な関係だと強調しています。
この考えを裏づけるものとして、筆者は自身の体験を語ります。筆者はソ連の収容所で飢えと過酷な労働を経験し、その中で生き延びるための〈共生〉を強いられました。
例えば、食器が不足していたため二人で一つの食缶を共有し、食べ物を均等に分けるという非常に神経をすり減らす作業を行いました。また、朝の作業で使う工具を確保するためにも最低二人の協力が必要でした。
このように、共生とは「互いに助け合う」という表向きの言葉より、もっと切迫した「一人では生きられない」という現実に基づいています。
さらに筆者は、人間を最後まで支配したのは「他者への強い不信感」だったと述べます。不信感は本来、仲間を遠ざけるもののように感じられますが、収容所では逆にそれが共生のきずなとなりました。人は他者を完全に信頼できないからこそ、必要最低限の協力関係を結ばざるを得ません。
ここには、「孤独」というテーマも重なります。筆者は孤独を「一人でいる状態」とは捉えず、むしろ共生という連帯の中でこそ感じられるものだと述べます。つまり、人は誰かと結びついているからこそ、自分の弱さや不安を強く意識し、それが孤独として深く心に残るのです。
筆者の体験は極限状態のものですが、「人は支え合いながらも、それぞれ孤独を抱えて生きている」という普遍的なテーマへと広がっています。
これは、学校生活や社会生活でも同じで、グループで行動していても、ふとした瞬間に孤独を感じることがあります。しかし、その孤独を受け入れる勇気があってこそ、本当の連帯や協力が生まれるのだというのが筆者の伝えたいメッセージです。
『ある共生の経験から』の意味調べノート
【共生(きょうせい)】⇒ 互いに助け合いながら共に生活すること。
【便宜的(べんぎてき)】⇒ 一時的に都合よく間に合わせるさま。
【瀬戸際(せとぎわ)】⇒ 物事が成功か失敗かの分かれ目の危機的状況。
【せっぱつまった】⇒ 追い詰められて余裕がない状態。
【比喩(ひゆ)】⇒ ある物事を他の物事に例えて表現すること。
【抑留(よくりゅう)】⇒ 行動の自由を奪い、強制的にその場所にとどめておくこと。
【未曾有(みぞう)】⇒ いまだかつてないこと。これまでに例がないこと。
【苛酷(かこく)】⇒ 非常にきびしく、むごいこと。
【飢饉(ききん)】⇒ 食べ物が著しく不足し、多くの人が飢える状態。
【顧慮(こりょ)】⇒ 事情や相手をよく考えて心配すること。
【拍車をかける】⇒ 物事の進行をさらに強めること。
【徴候(ちょうこう)】⇒ 何かが起こる前ぶれ。
【慣習(かんしゅう)】⇒ 長年続いて身についた習わしや決まり。
【普及(ふきゅう)】⇒ 広く行き渡ること。
【余儀なくされた(よぎなくされた)】⇒ 他に方法がなかった。そうするほかなかった。
【動機(どうき)】⇒ 行動を起こすきっかけや原因。
【不備(ふび)】⇒ 十分に整っていないこと。
【携行(けいこう)】⇒ 持ち歩くこと。
【順ぐり】⇒ 順番。
【やむをえず】⇒ しかたなく。
【爾後(じご)】⇒ 以後。それ以降。
【随伴(ずいはん)】⇒ 付き従うこと。
【折半(せっぱん)】⇒ 半分ずつに分けること。
【均質(きんしつ)】⇒ どの部分も同じ性質でそろっていること。
【またたき】⇒ 目を閉じたり開けたりすること。
【凝視(ぎょうし)】⇒ じっと見つめること。
【無我(むが)】⇒ ①私心がないこと。②我を忘れること。ここでは、②の意。
【こうこつ】⇒ 心を奪われてうっとりとするさま。
【錯覚(さっかく)】⇒ 実際とは違うように感じたり見えたりすること。思い違い。
【土工(どこう)】⇒ 土を掘ったり運んだりする作業。また、その作業をする人。
【良否(りょうひ)】⇒ 良いか悪いか。
【結束(けっそく)】⇒ 人々がまとまって協力すること。
【せんじつめる】⇒ 物事の核心まで突きつめて考える。
【困惑(こんわく)】⇒ どうしてよいかわからず戸惑うこと。
【脅威(きょうい)】⇒ おびやかしおどすこと。
【紐帯(ちゅうたい)】⇒ 人と人を結びつけるきずなや関係。二つのものを結びつける大切なもの。
【拘禁(こうきん)】⇒ 行動を制限してとらえておくこと。
【潜伏(せんぷく)】⇒ 物陰に隠れて表に出ないこと。
【潜在化(せんざいか)】⇒ 表に出ず、内にひそむ状態になること。
【連帯(れんたい)】⇒ 一緒に責任を分かち合い協力すること。
【悔恨(かいこん)】⇒ 深く後悔すること。
【解体(かいたい)】⇒ 分解してばらばらにすること。
【執拗(しつよう)】⇒ しつこく粘り強いさま。
【模索(もさく)】⇒ 手がかりを探して試行錯誤すること。
【秩序(ちつじょ)】⇒ 物事が乱れず整っている状態。
【暗黙の了解(あんもくのりょうかい)】⇒ はっきり言葉にしなくても互いに理解していること。
『ある共生の経験から』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①ベンギを図って席を替えた。
②テツヤで仕上げた原稿。
③昔の写真をカイコする。
④演奏後にハクシュが湧いた。
⑤壊したものをベンショウした。
次の内、本文の内容を表したものとして適切でないものを選びなさい。
(ア)筆者は、共生とは本来、人間同士が信頼し合って自然に成立する協力関係であり、収容所でもその温かさを深く実感したと述べている。
(イ)筆者は、生存が脅かされる極限状態では互いを支える必要はなくなり、共生はむしろ消滅して個々が独立して行動すると説明している。
(ウ)筆者は収容所での体験から、強い不信感がかえって結束を生み、共生を成り立たせる力になること、また孤独は連帯の中に生じると述べている。
(エ)筆者は収容所生活を通じて、他者との結びつきよりも個人の自立が重要だと悟り、共生という関係そのものを否定的に捉えるようになったと述べている。
まとめ
今回は、『ある共生の経験から』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。