『経済の論理/環境の倫理』は、教科書・現代の国語で学習する文章です。そのため、定期テストの問題にも出題されています。
ただ、本文を読むと筆者の主張が分かりにくいと感じる箇所も多いです。そこで今回は、『経済の論理/環境の倫理』のあらすじや要約、意味調べなどを解説しました。
『経済の論理/環境の倫理』のあらすじ
本文は、四つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを紹介していきます。
①経済学は、現実にないような社会や人間関係の仕組みを考える「思考実験」の役割を果たしている。アダム・スミスは、「人は自分の安全と利得だけを意図して行動するが、見えざる手に導かれて自分の意図しなかった<公共の>目的を促進することになる」と述べた。「見えざる手」とは、資本主義を律する市場機構のことで、資本主義社会では自己利益の追求こそが社会全体の利益を増進する、と言っている。言い換えれば、「道徳や論理は必要ない」ということだ。つまり経済学という学問は、「倫理」を否定することから出発したと言える。
②環境問題は人々が倫理性を欠いているから起こる、という世間一般の常識がある。言い換えれば、環境破壊は、資本主義が前提とする私的所有制の下での個人や企業の自己利益の追求により引きこされる、という常識である。しかし、経済学者にいわせれば、私的所有制とは、環境問題を解決するために導入された制度である。私的所有制は、「共有地の悲劇」を救い、「元祖」環境問題を解決してきた。合理的な牧草の管理などがよい例である。また、1997年の京都議定書では、先進諸国に温暖化ガスの排出枠を権利として割り当て、その過不足を売買することを許した。大気という自然環境に所有権を設定することで、温暖化という「共有地の悲劇」を解決しようとしたのだ。はたして、これで環境問題は解決するのだろうか?
③答えは「否」。解決できない。地球温暖化が深刻なのは、各国の利害が対立しているからではなく、未来と現在の二つの世代間の利害が対立しているからだ。未来世代はまだこの世に存在していない人間で、現在世代と取り引きすることは論理的に不可能である。唯一可能な方策は、現在世代が未来世代の権利を代行することだが、それは利害関係の当事者の一方が、同時に他方も代理して取引するという、利害の相反する状況を作り出してしまう。現在世代が自己利益を追求している限り、未来世代の利益を考慮して、自分自身と取り引きすることなどありえない。これは経済学の論理では解決できない問題である。
④経済学での人間と人間の関係とは、対等な人間どうしの関係のことである。対等の関係なら契約で処理することができるが、未来世代と現在世代の関係は対等ではない。未来世代とは、自分の権利を自分で行使できない本質的に無力な他者である。このような非対称な関係は、契約ではなく「信任」という関係になる。自己利益の追求を抑え、無力な他者の利益の実現に責任を持って行動すること、すなわち、自分のためではなく他人のために行動することが義務として要請される。法律では、信任された者は、「忠実義務」と「注意義務」の二つを最低限守って行動しなければならない。この二つの義務は、倫理的な行動が要請されるということで、これが信任関係を支える唯一の原理になっている。京都議定書の批准をめぐる混乱は、まさに「倫理」こそが地球上で最も枯渇した資源であることを思い出させてくれる。
『経済の論理/環境の倫理』の要約&本文解説
経済学の基本的な考え方は、「自分の利益を追求することで、社会全体が良くなる」というものです。例えば、お店が利益を追求すれば、商品やサービスが良くなり、消費者にとっても利益があります。
これをアダム・スミスという学者が「見えざる手」という言葉で説明しました。つまり、皆が自分の利益を追い求めることで、結果的に社会全体がよくなるという考え方です。
しかし、環境問題(特に温暖化問題)の場合、これだけでは解決できません。その理由は、「未来世代」と「現在世代」の間で利害が対立しているからです。
当たり前のことですが、未来世代の人はまだ生まれていません。そのため、今の人たちは未来の人々の利益を積極的に守ろうとはしません。例えば、温暖化を止めるためには今すぐに対策が必要ですが、今の世代はすぐに結果が見えないので、やりたくないと思う人も多いです。
ここで大事なのは、未来世代はまだ存在しないので、現在の世代がその人たちの権利を守るために行動しなければならないということです。
経済学では「契約」などで皆が対等に取引をすることが基本ですが、未来世代との関係は対等ではありません。未来世代は自分の利益を主張できないからです。だからこそ、未来のために今の世代が自分の利益を抑えて、倫理的に行動しなければならないと著者は述べています。
つまり、温暖化を解決するためには、単にお金のやり取りだけではなく、未来の人々のために今行動するという「信任関係」を持つことが重要だということです。この考え方は、経済学の枠を超えて、「他の人のために行動する」ことが必要だという倫理的な視点を強調しています。
結論として、著者は「倫理的な行動」が環境問題を解決するために必要であると主張していることになります。
『経済の論理/環境の倫理』の意味調べノート
【合理的(ごうりてき)】⇒無駄がなく、最も効果的な方法を選ぶさま。
【追求(ついきゅう)】⇒追い求めること。
【利得(りとく)】⇒利益。もうけ。
【促進(そくしん)】⇒物事を進めること。加速させること。
【資本主義(しほんしゅぎ)】⇒生産手段が私的所有で、利益追求を基盤とする経済システム。
【市場(しじょう)】⇒商品やサービスが取引される場所。
【倫理(りんり)】⇒人間の行動の基準となる、正しいこととされる考え方。
【道徳(どうとく)】⇒社会で適切とされる行動基準や規範。
【枯渇(こかつ)】⇒物が尽きること。枯れ果てること。
【到来(とうらい)】⇒ある時点に到達すること。
【元祖(がんそ)】⇒物事の起源。最初に始めた人やもの。
【賃料(ちんりょう)】⇒土地や建物を借りる際に支払う料金。
【請求(せいきゅう)】⇒代金や費用などを支払うように求めること。
【~に先駆けて(せんくけて)】⇒他のものより先に行うこと。
【遂げる(とげる)】⇒目標や目的を達成すること。
【否(いな)】⇒否定すること、反対の意味。
【利害(りがい)】⇒利益と損害。
【論理(ろんり)】⇒思考の道筋や理屈。
【補償(ほしょう)】⇒損害を埋め合わせること。
【根源的(こんげんてき)】⇒物事の根本にかかわるさま。
【方策(ほうさく)】⇒物事を解決するための方法や手段。
【代行(だいこう)】⇒他人の代わりに行うこと。
【相反する(そうはんする)】⇒二つのものが対立する。
【行使(こうし)】⇒権利を使うこと。
【後見人(こうけんにん)】⇒他人の世話や管理を行う人。
【信任(しんにん)】⇒信頼して任せること。
【要請(ようせい)】⇒必要だとして、強く願い求めること。
【~羽目に陥る(はめにおちいる)】⇒困った状況に陥る。
【批准(ひじゅん)】⇒正式に承認すること。
『経済の論理/環境の倫理』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①目標をツイキュウする。
②成長をソクシンする。
③春のトウライだ。
④事故でホショウを受ける。
⑤改善をヨウセイする。
次の内、本文の内容を表したものとして最も適切なものを選びなさい。
(ア)経済学は道徳や倫理を重視し、環境問題解決のための倫理的行動を強調する。
(イ)経済学は自己利益の追求が社会全体の利益を増進するとし、環境問題を解決するために倫理は必要ないとする。
(ウ)環境問題はすべての人々が平等に利害を共有していることから、倫理的行動に依存する。
(エ)未来世代との利害対立を解決するためには、現在世代が無条件で自己利益を追求しなければならない。
まとめ
今回は、『経済の論理/環境の倫理』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。