「正鵠を射る」という慣用句をご存知でしょうか?別の言い方だと、「正鵠を得る」と表記されることもあります。
見慣れない慣用句ですが、どっちを使えばよいのか迷うという人も多いようです。そこで今回は、これらの言葉の意味や由来、使い方・類義語などについて詳しく解説しました。
正鵠を射るの読み方・意味
最初に、「正鵠を射る」を辞書で引いてみます。
【正鵠を射る(せいこくをいる)】
⇒物事の急所・要点を正しくおさえる。正鵠を得る。正鵠を失わず。
出典:三省堂 大辞林
「正鵠を射る」は「せいこくをいる」と読みます。まれに「正鵠」のことを「せいこう」と読む場合もありますが、ほとんどの場合は「せいこく」と読みます。
「せいこう」と読む理由は、慣用読みからだと言われています。「慣用読み」とは元々は間違った読み方がいつのまにか定着したものですので、通常であれば「せいこく」と読むようにします。
そして肝心の意味ですが、「正鵠を得る」とは「物事の急所や要点を正しくおさえること」を表します。
例えば、「彼の正鵠を射る主張は、全員を納得させた。」などのように用います。この場合、彼の主張が大事な点を正確におさえていたため、人々を納得させたということです。
「正鵠を得る」は、このように「物事の大事な点をついていること」を表す慣用句となります。
なお、辞書の説明にもあるように「正鵠を射る」は、「正鵠を得る」や「正鵠を失わず」とも言います。それぞれの語源は後ほど詳しく説明しますが、意味自体はほぼ同じと考えて問題ありません。
正鵠を射るの語源・由来
「正鵠を射る」は、中国の漢字が元となっています。「正」と「鵠」は、中国語だとどちらも「的(まと)」という意味があります。
「的」とは、矢やダーツなどを投げる時に当てるものです。この「的の中心」を正確に射ぬくことが、現在の「要点をつく」という意味の元になったと言われています。
では、「正鵠を射る」ではなく「正鵠を得る」の方はどこから来ているのでしょうか?実はこちらはもう一つの由来から来ています。
「正鵠」の「鵠」は、「鳥」と書くように「白鳥」という意味もあります。昔の中国では、的の中央に「白鳥」の絵を描いていました。
その証拠に、中国の「礼記(らいき)」という書物では、矢を放って白鳥に命中させることを「正鵠を失わず」と書いています。「失う」は日本語では「得る」の反対語です。この事から、矢が的をとらえた時のことを「得る」と表現したと言われているのです。
以上の事から考えますと、「射る」と「得る」はどちらも正確な語源が存在するということが分かります。
時系列としては、日本に最初に入ってきたのは「正鵠を得る」の方が先と言われています。時代で言うと明治時代の頃です。
その後、昭和になると「正鵠」に「的」の意味もあることが判明し、「正鵠を射る」の方もだんだんと普及していきました。その結果、現在ではどちらも使われているという状況なのです。
正鵠を射るの類義語
続いて、「正鵠を射る」の類義語を紹介します。
- 本質をつく
- 本質をとらえる
- 核心をつく
- 要領を得る
- ポイントをつく
- ツボをつく
- 良い指摘をする
いずれの言葉も「大事な所をつく」という点が共通しています。
「正鵠」という言葉自体に「本質・核心・要点」などの意味があります。したがって、「本質をつく・核心をつく」などの言葉が類義語となるわけです。
正鵠を射るの対義語
逆に、「対義語」としては、次のような言葉が挙げられます。
- 曖昧な
- 要領を得ない
- 明白でない
- 漠然とした
- 要点をつかめない
- つかみどころがない
- ポイントが分からない
こちらは、「対象をはっきりと捉られない様子」を表した言葉となります。反対語の場合は「正鵠を射る」とは違い、否定的な使い方がされます。
正鵠を射るの英語訳
「正鵠を射る」は、英語だと次のように言います。
「to hit the mark」(要領を得る)
「hit the nail on the head」(核心を突く)
「mark」には「印、目印、目標」などの意味がありますが、ここでは「的」という意味で使われています。その「的」を「打つ(hit)」ので、「要領を得る」という訳になります。
一方で、後者の方は、「クギの頭の所を打つ」という意味です。「nail」には「クギ」という意味があり、この頭(head)をうまく打つことで板と板を止めることができます。転じて、「(物事の)核心を突く」という訳になるわけです。
例文だと、次のような形です。
You hit the nail on the head.(あなたの指摘は正鵠を射ているね。)
His answer hit the nail on the head.(彼の答えは正鵠を射ていた。)
正鵠を射るの使い方・例文
最後に、それぞれの使い方を実際の例文で確認しておきましょう。
【正鵠を射るの使い方】
- リーダーの部下への指摘は、まさに正鵠を射ていた。
- 彼の推理をよく聞いてみると、正鵠を射るものが多い。
- あの政治家は、正鵠を射る言葉で国民の支持を集めてきた。
- 解説者の正鵠を射る指摘に、視聴者はみな釘付けとなった。
- 見事に正鵠を射る説明をされたので、こちらも返答できなかった。
【正鵠を得るの使い方】
- 言い方はきついが、彼女が指摘した欠点は正鵠を得ていた。
- 話しがうまい人が、必ずしも正鵠を得ているとは限らない。
- 彼女は常に正鵠を得る発言をするので、部下からの信頼もあつい。
- 興奮して話し出すと、正鵠を失うことになるので注意が必要だ。
- 彼の意見は正鵠を失ったものだったので、同意は得られなかった。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「正鵠を射る」=物事の急所や要点を正しくおさえること。正鵠を得る。正鵠を失わず。
「語源・由来」=「的の中心を正確に射ぬくこと。矢を放って白鳥に命中させること」から。
「類義語」=「本質をつく・核心をつく・要領を得る・ツボをつく・ポイントをつく」
「英語訳」=「to hit the mark」「hit the nail on the head」
「正鵠を射る」は様々な言い方をすることができる慣用句です。ぜひ正しい場面でそれぞれの言葉を使うようにしてください。