『日本文化の雑種性』は、高校現代文の教科書に載せられている評論です。ただ、本文を読むとその内容や筆者の主張が分かりにくい箇所もあります。
そこで今回は、『日本文化の雑種性』のあらすじや要約、テスト対策などを含めわかりやすく解説しました。
『日本文化の雑種性』のあらすじ
本文は、大きく分けて5つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。
①私は西洋見物の途中で、日本の問題に対しては西洋化に解決を求めるのではなく、日本人の立場から西洋の影響のない日本的なものに求めるべきだと考えた。それはつまり、日本人も英仏のように独自の精神的、文化的な背景をもつ国民主義的な立場に立つということである。しかしその結論は、まちがっているということがはっきりした。
②日本の第一印象は、西洋とは異なる伝統的な日本と他のアジア諸国とは異なる西洋化した日本が同時にあることであった。日本の文化の特徴は、その二つの要素が深い所で絡んでいて、どちらも抜き難いというところにある。つまり、日本の文化は雑種文化の典型ではないかということだ。その根本には、伝統的な日本の文化と容易に分かつことができないほど西洋種の文化が深く関わっている。
③日本文化の純粋化運動とは、「日本の純粋な西洋化」と「純粋な日本化」との相反する二つの考え方に基づくものである。この運動は、日本の文化に西洋化が深く関わっているために、成就することはない。純粋日本化にしろ純粋西洋化にしろ、およそ日本文化を純粋化しようとする念願そのものを棄てることである。そして、日本の文化の雑種性という視点から、日本の文化を考えていくべきである。
④明治維新以後、日本は西洋から技術・制度を受け入れてきた。だが、摂取すべき西洋文化が技術・制度の領域を越えて精神の領域に及べば、国民主義的反発と西洋思想の受容という二つの傾向が対立することになる。日本文化の本当の問題は、文化の雑種性に積極的な意味を認め、それを生かす時にどういう可能性があるかということだ。
⑤戦後の民主化の過程により、西洋の考え方でありながら日本人の精神に定着したものの考え方に、日本人の人間としての自覚がある。日本文化の雑種性とは、他国の文化をただ受け入れるというわけではなく、外国を理解し自国を理解するということである。日本文化の雑種性を嘆く理由はどこにもない。
『日本文化の雑種性』の要約&本文解説
筆者の主張を簡単に言うなら、「日本の文化は雑種性であるため、その雑種性に積極的な意味を認めるべきである」ということになります。つまり、「様々な文化が混ざっていることを認め、自国も外国もよく理解することが重要である」ということです。
この評論が書かれたのは1955年で、戦後から十年が経った年です。日本が民主主義の道を歩み始めた時に、改めて日本文化を再検討した文章となっています。
まず筆者は西洋見物をした際に、当初は「日本人も英仏人のように文化的に純粋種でなければならない」と考えていました。ところが、その考え方は間違いであることに気付きます。
日本の生活というのは、明治維新の影響により、政治や教育、制度、組織の成り立ちなどさまざまな分野において西洋の型で作られています。一方で、日本には古くから伝統的な文化や慣習などが根強くしっかりと残っています。
したがって、どちらか一つの文化に統一すること(純粋な西洋化もしくは純粋な日本化)は、不可能なのだと筆者は述べています。仮にどちらか一方を切り捨てたしても、枝葉が再生してくるようにまたどちらかの文化が出てくるため、日本文化を純粋化する念願は棄てるべきだということです。
考えてみれば、日本ほど自国と外国の文化が混ざっている国は世界を見てもありません。1月は神社へのお参り、2月はバレンタインデー、4月はお花見、8月はお盆、10月はハロウィン、12月にはクリスマスなど一年を通して文化に雑種性があります。
それは過去の歴史において、日本と西洋の文化はもはや切っても切り離せないほど私たちの生活に深く根付くようになったからです。
最終的に筆者は、「日本文化の雑種性を考えることは、外国を理解し自国を理解するという試みである」と結論付けています。つまり、自国と外国の両方を理解することが真の意味での雑種性だということです。
『日本文化の雑種性』の意味調べノート
【怠慢(たいまん)】⇒当然しなければならないことをしないこと。なまけて、おろそかにすること。
【抽象的(ちゅうしょうてき)】⇒頭の中だけで考えていて、具体性に欠けるさま。
【原則(げんそく)】⇒基本的方針となる規則。
【浅薄(せんぱく)】⇒考えや知識が浅く、行き届いていないさま。
【国民主義(こくみんしゅぎ)】⇒本来は、「国民の自由と権利を尊重しつつ、近代国家の形成を目指す思想・主義」という意味だが、ここでは「自国の伝統的な文化を積極的に取り上げようとする心の動き」のことを表す。
【軽薄(けいはく)】⇒軽々しいさま。
【培う(つちかう)】⇒大切に養い育てる。
【原理(げんり)】⇒他のものがそれに依存する根本的・根源的なもの。
【誇張(こちょう)】⇒実際よりも大げさに表現すること。
【文物(ぶんぶつ)】⇒文化の産物。学問・芸術・宗教・法律・制度など、文化に関するもの。
【根を下ろす(ねをおろす)】⇒草木がしっかりと根を生やす。転じて、しっかりと位置を占める。定着する。
【抜き難い(ぬきがたい)】⇒取り去ることが難しい。
【典型(てんけい)】⇒同類のもののうち、その特徴を最もよく表しているもの。代表例となるもの。
【枝葉(しよう)】⇒物事の本質に関わりのない部分。主要でない部分。
【断定的(だんていてき)】⇒物事にはっきりした判断をくだすさま。
【著しい(いちじるしい)】⇒はっきりわかるほど目立つさま。明白であるさま。
【和綴じ(わとじ)】⇒糸で綴じる和本の綴じ方。
【前近代的(ぜんきんだいてき)】⇒合理性に欠け、旧態依然として事が行われているさま。
【独占資本主義(どくせんしほんしゅぎ)】⇒少数の巨大な金融資本が、一国の全経済を支配している資本主義の発展段階。
【立論(りつろん)】⇒議論の趣旨を組み立てること。
【念が入る(ねんがいる)】⇒細部まで注意が行き届いている。ていねいである。
【概念(がいねん)】⇒大まかな意味内容。
【心得る(こころえる)】⇒物事の事情や意味するところをよく理解する。
【念願(ねんがん)】⇒常に心にかけて強く望むこと。また、その望み。
【体裁を整える(ていさいをととのえる)】⇒外見がよく見えるように取り繕う。外面を気にかける。
【とめどもなく】⇒終わることなく。際限なく。
【風潮(ふうちょう)】⇒時代の推移に伴って変わる世の中のありさま。
【たてまえ】⇒表向きの考え。
【実地(じっち)】⇒理論や説明だけでなく、実際にそのことを行うこと。また、そういう場面。
【契機(けいき)】⇒きっかけ。
【和魂洋才(わこんようさい)】⇒日本の精神と西洋の学問・技術を兼ね備えること。
【国民主義的反作用(こくみんしゅぎてきはんさよう)】⇒伝統を保守する側が、日本人の精神に西洋文化が介入することに反発すること。
【自発的(じはつてき)】⇒自ら進んで物事を行うさま。
【矛盾(むじゅん)】⇒つじつまが合わないこと。
【歴史主義(れきししゅぎ)】⇒世界を歴史の発展段階によって理解しようとする考え方。
【清算(せいさん)】⇒これまでの事柄・関係などに結末をつけること。
【観念的(かんねんてき)】⇒具体的事実に基づかずに頭の中で組み立てられただけで、現実に即していないさま。
【おめでたい】⇒思慮が足りない。馬鹿正直な。
【抗して(こうして)】⇒抵抗して、対抗して、などの意味。
【殊に(ことに)】⇒とりわけ。特に。
【鼓舞(こぶ)】⇒人の気を奮い立たせること。
【本地垂迹(ほんじすいじゃく)】⇒神仏習合に関する説。筆者が本地垂迹をつまらないと述べるのは、外来の仏教を日本古来の神道へ無理に結びつけるため。
『日本文化の雑種性』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①タイマンな行動。
②豊かなカンジュ性を持つ。
③彼はキンベンな学生だ。
④ホンヤクの機能を持つ。
⑤ネンガンを果たす。
⑥テイサイを繕う。
⑦栄養をセッシュする。
⑧過去をセイサンする。
⑨レットウ感を持つ。
⑩選手たちをコブする。
まとめ
以上、今回は『日本文化の雑種性』について解説しました。文化について論じた文章は、大学入試においても出題されやすいです。ぜひ正しい読解ができるようになって頂ければと思います。