『虚ろなまなざし』は、現代文の教科書に出てくる評論です。ただ、本文を読むとその内容や筆者の主張が分かりにくい箇所もあります。
そこで今回は、『虚ろなまなざし』のあらすじや要約、語句の意味などを含めわかりやすく解説しました。
『虚ろなまなざし』のあらすじ
①ハゲワシに狙われている難民の少女の写真は、見る者に大きな衝撃を与えた。だが、その衝撃は異様な事件へと発展し、人々はこのカメラマンを非難し始める。そして、カメラマンはある日自ら命を断ってしまった。写真の中の無感情の少女に、私たちは自分が経験する恣意的な感情を想像する。それは私たちの想像外の感情を抑圧し、私たちの加害性を都合よく隠蔽してしまう。
②難民キャンプの様子がメディアなどで報じられると、人々は具体的に何かをしようと、自分が主体となり突然行動し始める。これは難民の子どもたちの感情のない虚ろな視線に耐えられないからだ。私たちは語りの主体になろうと彼らに代わって声を伝えるが、それはあくまで対処療法にすぎず、根本的な変革には決して結びつかないだろう。
③そもそも、「声なき声」などというレトリックは詭弁にすぎないのではないか。私たちは自分たちが聴き取りたいものを聴き取っているだけではないのか。私たちの代弁は、もしかしたら、そうではなかったかもしれない可能性を全て奪っているのかもしれない。
『虚ろなまなざし』の要約&本文解説
私たちが生きているこの社会は、様々な問題を抱えています。人権問題、環境問題、民族問題、南北問題など、挙げればきりがありません。これらの問題がメディアで紹介された時、私たちは突如としてお金や食べ物などを送ろうと行動してしまうことがあります。
しかし、筆者はそのような行動は一時的な対処療法にすぎず、根本的には何も解決することができないのだと主張します。それどころか、私たちを暴力的に主体化するのだと主張します。
筆者はまず冒頭で、ハゲワシに狙われている難民の少女の写真と、それがもとで起きたカメラマンの死を取り上げ、読者に対して問題提起をしています。次に、「虚ろなまなざし」が耐えがたい理由と、被害者としての自分を対象に同一化することの暴力的な主体化の問題性を訴えています。
そして第三段落で、「声なき声を伝えること」が奪っている可能性について述べています。これは、私たちの「声なき声を伝える」という代弁は、そうではなかったかもしれない可能性を奪っているのかもしれない、ということです。
全体を通して大事な箇所は、私たちが難民の人達の代わりに語りの主体となったとしても、それは対処療法にすぎず、根本的な変革には結びつかないのだ、という部分にあります。つまり、私たちが誰かの語りの主体になったとしても、それは結局のところ、単なる自分自身の声に過ぎないということです。
『虚ろなまなざし』の意味調べノート
【難民(なんみん)】⇒戦争や紛争などによって、やむをえず住んでいる地を離れた人々。
【両翼(りょうよく)】⇒鳥や飛行機などの、左右のつばさ。
【途上(とじょう)】⇒目的地へ向かう途中。
【遭遇(そうぐう)】⇒偶然、出会うこと。
【飽食(ほうしょく)】⇒食に不自由しないこと。
【釈明(しゃくめい)】⇒非難に対して、相手に自分の考えや事情を説明して理解を求めること。弁明。弁解。
【自死(じし)】⇒自ら死ぬこと。
【人道的(じんどうてき)】⇒人として守り行うべき道にかなうさま。
【猛禽(もうきん)】⇒肉食で性質が荒い、ワシやタカなどの総称。
【主体(しゅたい)】⇒自覚や意志に基づいて行動したり、他に作用を及ぼしたりするもの。ここでは、先進国の人々を指している。
【恣意的(しいてき)】⇒気ままで自分勝手なさま。論理的な必然性がなく、思うままにふるまうさま。
【類推(るいすい)】⇒似ている点に基づいて、他を推し量ること。
【元凶(がんきょう)】⇒悪者の中心人物。また、悪いことのおおもと。
【加害性(かがいせい)】⇒他に害を与える要素。
【隠蔽(いんぺい)】⇒物事をおおい隠すこと。
【南北構造(なんぼくこうぞう)】⇒北半球の先進国と南半球の発展途上国に経済的な格差が生まれている構造のこと。
【普遍的(ふへんてき)】⇒すべてのものにあてはまるさま。
【虚ろ(うつろ)】⇒気力や生気を失っているさま。また、心が虚脱状態で、ぼんやりしているさま。
【山積(さんせき)】⇒処理すべき仕事・問題などが多くたまること。
【忘却(ぼうきゃく)】⇒忘れ去ること。
【変貌(へんぼう)】⇒姿や様子が変わること。
【ヒューマニズム】⇒人間性を尊重し、人類の幸福を目指す思想。ここでは、「人道的」と同じ意味。
【はからずも】⇒思いがけず。意外にも。不意に。
【理不尽(りふじん)】⇒道理に合わないこと。
【不相応(ふそうおう)】⇒釣り合わないこと。ふさわしくないこと。
【老成(ろうせい)】⇒大人びていること。老成していること。
【諦観(ていかん)】⇒世の中が虚しいものと悟り、あきらめること。
【空虚(くうきょ)】⇒価値や内容がないさま。
【内実(ないじつ)】⇒内部の実情。
【幻影(げんえい)】⇒実際は存在しないのに、あるように見えるもの。
【著名(ちょめい)】⇒世間に名が知られていること。
【対症療法(たいしょうりょうほう)】⇒ここでは、「根本的な解決ではなく、表面的な対処をすること」を比喩した表現。
【契機(けいき)】⇒ある事象を生じさせるきっかけ。
【内在(ないざい)】⇒あるものが、そのものの中にもとから存在すること。
【依拠(いきょ)】⇒あるものに基づくこと。よりどころとすること。
【防衛機制(ぼうえいきせい)】⇒自己を守ろうとする心の仕組み。
【関与(かんよ)】⇒ある物事に関わること。
【レトリック】⇒うわべだけを飾った巧みな表現。
【詭弁(きべん)】⇒道理に合わないことを無理やり正当化しようとする弁論。
『虚ろなまなざし』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①ナンミンを救済する。
②ショウゲキを与える。
③ホウショクの時代。
④サンセキした問題。
⑤ボウキャクを決め込む。
⑥内容がケツジョする。
⑦コウテイ的な意見。
⑧失敗をケイキに改善する。
次の内、本文の内容を表したものとして適切でないものを選びなさい。
(ア)私たちは難民の少女を見て、自分が経験する恣意的な感情を想像し、自分が主体となり突然行動し始める。
(イ)私たちが「それ」を主体化して難民にお金や毛布を送ったとしても、それは一時的な対処療法にすぎないと言える。
(ウ)私たちにとって真に耐えがたいのは、難民の子どものような異様で辛そうな姿を目にすると感情を抑制できないことである。
(エ)「声なき声」などというレトリックは詭弁にすぎず、私たちは自分たちが聴き取りたいものを聴き取っているにすぎない。
まとめ
以上、今回は『虚ろなまなざし』について解説しました。人権問題について語った評論は、入試においても出題されやすいです。ぜひ正しい読解をして頂ければと思います。