『舞姫』は、森鴎外による小説です。有名な作品なので、高校現代文の教科書にも載せられています。
ただ、本文を読むとその内容が分かりにくい箇所も多いです。そこで今回は、『舞姫』のあらすじやテスト対策などを含め簡単に解説しました。
『舞姫』のあらすじ
本作は、大まかに分けて十の段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。
①五年間のドイツ留学から帰国する途中、「余」は鬱々とした思いを抱えながら一人だけ船内に残り、手記をつづり始めた。人の知らない深い恨みを晴らそうと、以下にその思いの概略を記そうとする。
②「余」たる太田豊太郎は、幼少の頃から神童でエリートの道を歩み続け、ついに五年前に官命を受けてベルリンへの留学を果たす。初めての西欧文化に驚くが、心を動かされまいと誓う豊太郎は、ベルリンの大学の聴講の手続きをとる。
③ベルリンに来て三年が経ち、大学の自由な空気に触れて、豊太郎は内なる自我に目覚める。そして、今までの所動的、器械的な生き方に疑問を感じ、法律以外の歴史や文学といった学問に興味を引かれるようになる。一方で、豊太郎は心の弱さから頑固な面があったため、他の留学生との関係が悪くなり、妬まれ孤立していくことになる。
④ある日の夕暮れ、豊太郎はクロステルの裏街に寄り道をする。そこで、寺院の扉に寄りかかって泣いている少女エリスと出会う。豊太郎は、父が死んで葬式の費用もない踊り子エリスに同情し、その窮状を救うことになる。
⑤豊太郎とエリスは付き合うようになる。だが、このことを知った留学生仲間が、エリスとの仲を官長に告げ口し、豊太郎には免官という厳しい処分が下される。母の死の知らせも届き、苦しい状況の中で二人の関係はより深いものとなる。
⑥在京の友人である相沢が、新聞社の通信員の職を斡旋してくれたため、豊太郎はベルリンにとどまることになった。豊太郎はエリスの家に同居し、生活環境は大きく変化していくことになる。学問から遠ざかり、民間学に目を向けることになったが、豊太郎の心の中には、学問が荒んでいくことへの嘆きが残る。
⑦天方大臣に随行してきた相沢の紹介で、豊太郎は大臣を訪れる機会を得る。高級ホテルで天方大臣の翻訳の用件を受けた後、相沢から学問のためにエリスとの関係を断つように言われる。豊太郎は苦悩しながらも、それを受け入れる約束をしてしまい、心の中に寒さを覚える。
⑧大臣からの依頼で、豊太郎は通訳として大臣と同行しロシアへと旅立つ。しかし、その間もエリスから豊太郎への思いを込めた手紙が届く。エリスの切迫した文面により、豊太郎は罪の意識に苦しんでいく。
⑨ベルリンに戻った豊太郎は、出産を控えて喜びに満ちた様子のエリスに迎えられる。だが、大臣に仕事ぶりを高く評価され、帰国を勧められて承諾してしまう。豊太郎はエリスに対する罪の意識で心が乱れるまま、夜半のベルリン市街をさまよい、エリス母子の住む家に近づき、屋内に入ると気を失ってしまう。
⑩数週間後に意識を取り戻したときは、相沢が来てエリスに真相を語った後であった。豊太郎は、相沢から全てを聞いたエリスが精神に異常をきたしてしまったことを知る。エリスを残して帰国の途についた豊太郎は、相沢に対してこの上もない友だと思う一方で、エリスのことについてはどうしても彼を恨む心が残った。
『舞姫』の本文解説
『舞姫』は、作者である森鴎外が明治時代である1884年にドイツへ留学した際の経験をもとに書かれた作品です。つまり、実際にそのままあった話ではなく、実話をもとにしたフィクションということです。したがって、本作には多少の創作が含まれており、事実とは異なる描写も出てきます。
文章の形式としては、平安朝時代風の「雅文体(がぶんたい)」で書かれているのが特徴です。そのため、現代の私たちにとっては読みにくい文体であると言えます。
物語としては、官命を受けてドイツへ留学した豊太郎が、舞姫アリスとの恋愛と自由な学問の習得により、近代的自我を確立しようとしながらも、立身の夢を捨てきれない心の弱さから、それらを貫き通せなかったことで挫折と苦悩を味わった、という内容になっています。
ここでは、なぜ彼がこのような状況に陥ったのかという背景を考えることが大切です。
まず彼は幼い頃に父親を亡くし、一人っ子の母子家庭で育ったと書かれています。こういった複雑な家庭環境の中で生まれ育った感性が、ベルリンに取り残される孤独に耐えられず、相沢の善意を裏切れなかったという行動につながったと考えられます。
次に、当時の時代背景を考えてみると、当時の日本は富国強兵や脱亜入欧などの考え方が強かった時代でした。そのような時代の中で、彼は幼少期からエリートとして人格の基本を徹底的に教え込まれました。
そのため、ベルリン大学での経験が、豊太郎に全く異なる生き方を示したとしても、彼の考えを変えるのは容易ではなかったはずです。また、当時の日本社会にもそのような思想を受け入れる社会的基盤はなかったと考えられます。
このように、単に豊太郎の心が弱くて挫折と苦悩を味わったという話ではなく、彼の生い立ちや当時の時代背景、社会環境なども考えながら読むのが、『舞姫』を理解する上でのポイントとなります。
『舞姫』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①カンメイでドイツへ留学する。
②カンショクを確かめる。
③コり固まった考え。
④メイヨある賞を頂く。
⑤怪我のコウミョウ。
⑥他人をアザムく。
⑦ドウキョウの後輩と話す。
⑧シゲキを求める。
⑨ホウシュウを得る。
⑩サクラン状態になる。
まとめ
以上、今回は『舞姫』について解説しました。ぜひテスト対策として見直して頂ければと思います。なお、本文中の重要語句については以下の記事でまとめています。